約束の弥勒菩薩

高校の時「日本史」の授業で
京都太秦の広隆寺の弥勒菩薩のことを知った。

便覧に写真があって
その有名な仏像の写真を見ていると
先生がこんなことを言われた。
たしかこんなような。

この弥勒菩薩の木像は
フェノロサが京大の院生と研究しているときに
そのあまりの美しさに
学生が菩薩さまに口づけをした
その時仏さまの小指が折れてしまい
ボンドでつけてあるのだ

と。

夢見る十代の乙女は
このお話しに恋をした。

そして心に決めた。

いつか一生を添い遂げる人と
この仏像を拝もう

果たしてその数年後
私は結婚して
たまたまその
京都太秦の広隆寺近くに住んでいた。

近くにあると
なかなか行かない。
忙しくもあった。
まだ広隆寺には行けてなかった。

でも無理が祟って
決定的に体調を崩して
休養が必要になったときに

高校の時の「自分との約束」を
思い出した。

一生を添い遂げる人としか行かないと決めた
お寺のすぐ近くに偶然にも住んでいるのだ！

弥勒菩薩さまに会いに行こう！
夫とこそ行こう。

そう思って
夫を誘っていっしょに行った。

本堂は薄暗く静かだった。
他には誰もいなかった。

夢に見た弥勒菩薩さまが
思ったよりこじんまりと
そこにおられた。

じっと見た。
ずいぶん長いことそこに居た。

夫は黙ってつきあってくれた。

たしかに美しい仏さまだった。

あれから何年だろう。

添い遂げる人になるのかどうか
遂げてみないとわからないけど

夫と何かうまくいかないことがあると

私は
高校の時の「日本史」の授業で
ロマンチックな小指のエピソードを聞いた時
自分にかけた「まじない」を思い出す。

この人とは
弥勒菩薩さまをいっしょに見たんだから
ちょっこらに
ダメになったりしない

「まじない」はとりあえず
まだ効力があるようで
今年は結婚２５周年を祝った。